市野英一窯
profile
市野英一(いちのひでかず)

profile
市野英一(いちのひでかず)
創業40年 初代
生まれ年 :1959年
作陶開始年 :1986年
学歴・修行歴
1982年 大阪芸術大学卒業
主な受賞歴
1990年 日本伝統工芸展初入選 92,96,97
1991年 田部美術展初入選 以後数回
1993年 日本陶芸展初入選 95,97,99
1995年 日清食品現在陶芸めん鉢展(大賞)
1997年 朝日陶芸展 焼〆陶展 入選
1998年 益子陶芸展 入選

The state of the workshop









Works


撮影:青谷 建
Interview
「フラット」を手で施すからこそ技術が光る。伝統を深化させる市野英一窯・ 市野英一の審美眼
平らであることに手を抜かない。料理のために綿密に設計されたシンプルなプレート
市野英一窯の市野英一さん(以下、英一さん)は、開窯から40年以上にわたり、丹波の土と向き合いながら、自身の表現を更新し続けてきた陶工だ。伝統を踏まえながらも、早くから既存の様式にとらわれない表現を模索してきた。
伝統的な丹波焼に網目文様を組み合わせた網目象嵌は、土の素朴さと規則的な文様が同居するシリーズで、30年にわたり愛されている。
そして近年、SNSを中心に若い世代に広がって人気を博しているシリーズがある。オーソドックスなプレートだ。
形は丸と四角。均一な平面。無駄な装飾はない。持つと厚みを感じ、どっしりと重い。どこまでも静かで寡黙である。

「うつわは、料理を盛りつけたときに主役を引き立てる余地がないといけない。この平らな形は、神戸のホテルの料理長と一緒に考えたものでね。メニューによるバランスを突き詰めて、27、25、23、18cmというサイズ展開に行き着きました」
色は潔く、白と黒の2色のみ。しかし、その表情は一様ではない。黒は光の加減で陰影が宿り、白は丹波の土特有の赤茶色がうっすらと透け、アンティークのような風合いを醸し出す 。
「白は難しい。釉薬を薄くかけて、素材感が出るように計算している。色数を絞るのは、表現が強くなるから。あちこち手を出して考えがまとまらないより、個性をひとつに絞る。それが肝心なんです」
一見すると、ただフラットでシンプルなプレートに見える。だが実際には、焼成時の歪みを見越して土の反発を抑え、縁の内側をわずかに落とした面を、厚みが均一になるまで一枚ずつカンナで削り出している。
石膏型を使えば量産は可能だが、英一さんはそうしない。平らであることを手仕事で成立させる──その積み重ねが、このプレートを支えている。

「売れるもの」より「作りたいもの」。家業から独立した理由
英一さんの父は、丹波立杭でやきもの屋を営み、時代の需要に応じたうつわを作っていた。
「僕は高校生の頃から絵が好きで、大阪芸術大学では絵画を学びました。でも、3年生で専攻を決めるとき、どこかに家の仕事が頭にあったんでしょうな。工芸学科の陶芸を選んだんです」
大学卒業後は修業には出ず、父の工房を半年ほど手伝った。しかし、その関係は長くは続かなかった。
「親父の世代は、戦後食べていくために『売れるもの』を作るのが仕事やった。でも20歳くらいの僕は、自分のデザインや表現を追求したかった。芸術的な志向が強くてね。結局父とは合わんかったんで、独り立ちしたんですわ」
若き日の英一さんは、全国の公募展に作品を出品し、網目模様を施した作品などで入選や大賞を重ねていった。やがて百貨店から個展のオファーが舞い込むようになる。

本を読み、暮らしを見る。市野英一のものづくりを支える視点
英一さんのものづくりは、土や技法だけでなく、長年にわたる読書と思考の積み重ねにも支えられている。
これまで制作の合間に、英一さんは専門書に目を通してきた。その蔵書数は1200〜1300冊に及ぶ。縄文土器から現代まであらゆる知識を蓄積して、自身の血肉にしてきた。網目象嵌シリーズの着想も、縄文土器の文様から得たものだという。
そして、英一さんがものづくりの指針として語ったのが、世界的な実業家たちの名前だ。
「松下幸之助さん、本田宗一郎さん、それにユニクロの柳井正さんやIKEAの創業者カンプラード。彼らの本は面白いですよ。特にIKEAの『組み立て式にして、顧客に持ち帰らせる』という発想。場所を取らず、コストを抑えて顧客に届ける。この考え方は柳井さんと通じるものがあるんです」
英一さんが世に送り出してきたのは、かつての高級な壺ではなく、現代の暮らしの中で使われる道具としてのうつわだった。SNSで自分のうつわが使われているのを見れば、「この盛り付けはセンスがいい」と楽しみ、食洗機で洗える丈夫さも説く。
「自分ではSNS発信しない、見るだけ。お客さんが喜んで紹介してくれる、それが信用につながるから」
歴史のなかで連綿と受け継がれてきた営みの本質をあらゆる角度からとらえながら、その視線は常に「今の暮らし」を見つめる。鋭い審美眼と合理的な経営感覚。その両輪が、陶工・市野英一の今日のものづくりを形づくっている。

取材・文・撮影:野内菜々


