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丹京窯
profile
清水昌義(しみずあきよし)

profile
清水昌義(しみずあきよし)
創業60年以上 二代目
生まれ年:1955年
作陶開始年:1974年
学歴・修行歴
三田学園高等学校
1974〜1976年 大上昇氏に師事
主な受賞歴
1977 兵庫県展 入選・入賞
1983 兵庫県工芸美術作家協会会員
2015 近畿経済産業局長表彰
2018 丹波立杭焼伝統工芸士認定
2019 兵庫県技能顕功賞
2019 経済産業大臣表彰
2015 叙勲瑞宝単光賞

The state of the workshop
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Works


撮影:青谷 建
Interview
伝統「イッチン技法」の海老と柔らかなな絵付け。登り窯へのロマンを普段づかいのうつわへと昇華させる丹京窯・清水昌義
伝統技法イッチンとしのぎが織りなす“用の美”
明治28年に造られ現存する最古の窯「丹波焼立杭登窯」に隣接する、丹京窯の小さな工房。
扉をあけて足を踏み入れると、まるまった背中が目に入る。ろくろと向き合って作陶していたのは、丹京窯2代目の清水昌義(あきよし)さん(以下、昌義さん)だ。丹波焼の伝統技法を取り入れながらも、どこか軽やかで現代の食卓に心地よく馴染むうつわを作り続けている。
なかでも、伝統技法「イッチン(筒描き)」で描かれた海老の絵付けは、丹京窯を象徴する意匠だ。かつては大きな壺や徳利に施されることが多かった縁起物のデザインだが、昌義さんはそれを現代のティーカップや小皿へと落とし込んだ。泥を細く絞り出して描かれる海老は、うつわの表面で今にも跳ねそうなほどの躍動感を放つ。
「師匠の作品にも海老が多く描かれていました。その背中を見ていた影響が大きいですね」
古くから愛されてきたモチーフが、今の時代にも色褪せず、洗練された美しさとして引き継がれている。

また、器の表面をノミで削り出す「しのぎ」の技法も、丹京窯の代名詞だ。整然と刻まれた縦の溝が、光を受けて柔らかな陰影を映し出す。
そこに「使いやすさ」を意識することを忘れない。
「作り手であると同時に、私もひとりの使い手ですから。一番大切にしているのは、持ちやすさ。毎日なにげなく手に取ったとき、手にしっくりとくる。指の掛かりが良い。そんな違和感のない器こそが、私にとっての『用の美』なんです」
さらに、丹京窯のラインナップに柔らかな彩りを添えているのが夫婦の共作だ。昌義さんが形作ったうつわに、妻の裕子さんが草花やいきものなどをモチーフに繊細な絵付けを施す。昌義さんの「剛」と、裕子さんの「柔」。その二つが一つに重なった時、幅広い世代に愛されるうつわが完成する。

酒樽の下請けとして始まった。父とともに家業を支えた母の記憶
父が立ち上げた丹京窯は、当初、醤油や酒を入れるための陶製容器「酒樽」を製造する下請けからスタートした。
昌義さんの脳裏には、今も鮮明に焼き付いている光景がある。それは、家業を懸命に支えていた母の姿だ。
「成形した大きな酒樽を乾燥させるために、長い板の上にいくつも乗せてね。それをヒョイと肩に担いで運ぶんです。全部で20kg以上はあったんちゃうかな。女性があんな重たいものを……。当時は当たり前のように見ていたけど、今になって思えば本当に大変な仕事やったんやなと、感謝しかありません」

高校卒業後、昌義さんは立杭の窯元で3年間の修業を積む。そこでは丹波焼の技術だけでなく、真髄にも触れることになる。
「師匠からは技術だけでなく、この地域で焼く意味を教わりました。850年という時間の積み重ねの上に、今自分が立っているということ。その誇りと責任。修業を通じて、ようやくこの仕事ができることのありがたみが、少しずつ理解できるようになったんです」
修行を終えたのは21歳の頃。当時は民藝運動の大きな波が立杭にも押し寄せていた時代だ。昌義さんは父が守ってきた壺や花器も継承しつつ、自らの感性を頼りに「食卓で使う日常づかいのうつわ」への挑戦を始めた。作り続けるうちに独自のスタイルを確立していったという。

登り窯の煙が上がり続けていた「産地の風景」
「今は主にガス窯を使って焼いています。体力的なこともあって登り窯からは足が遠のいてしまったけれど……。でもね、やっぱりあの中にあるロマンは、何物にも代えがたいですよ」
薪をくべ、3日3晩炎と対峙する登り窯の焼成。土と炎がぶつかり合い、人の手では決して作れない「自然釉(しぜんゆう)」がうつわを覆う。
「窯を止めた後、中がどうなっているか気になって仕方ない(笑)。まだ熱いうちに覗こうとして『割れるから絶対あかん!』と怒られたこともありました」
かつて立杭の里には、あちこちの窯から松の薪が燃える煙がもくもくと立ちのぼっていた。それが立杭ならではの風景で、今ではその光景を見る頻度も少なくなった。しかし、昌義さんは「産地の空気感」そのものを大切にしたいと考えている。
「丹波焼は、うつわという『物』だけではないんです。煙がたなびく風景、土を捏ねる音、職人たちの話し声。そのすべてが『産地』を象徴するもの。立杭を訪れたら、ぜひこの空気感を感じてほしい」
病を経験した今は、大好きだったお酒もタバコもスパッとやめた。毎朝の散歩を欠かさず、自身の体と対話しながらろくろに向かう。
「いい仕事は、健康であればこそですね」
そう言ってニコリと笑う昌義さんの手から生み出されるうつわには、伝統をつなぐ決意と、使い手の日常を慈しむやさしさが刻まれている。


