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壺市

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市野元祥(いちのげんしょう) 

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市野元祥(いちのげんしょう) 

二代目
生まれ年:1958年
作陶開始年:1981年

学歴・修行歴
嵯峨美術短期大学 陶芸科 卒業 
岩渕重哉 氏に師事 

主な受賞歴
日本伝統工芸近畿展日本経済新聞社賞

The state of the workshop

スクロールできます

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Works

撮影:青谷 建

Interview

漆黒に土の力を込め、日々の食卓に温もりを宿す。実直な手仕事が光る、壺市・市野元祥のうつわ 

「使いやすかったよ」の一言のために。暮らしの真ん中に置く器 

壺市のうつわは、凛として静かである。あざやかな色彩や豪華な装飾に頼ることはない。丹波の土が宿す力を引き出した深く上品な漆黒に目を奪われ、手に取った瞬間に指先やてのひらが納得するような、確かなおさまりの良さに安心感がある。

「特別な日のうつわやなしに、家庭で毎日普通に使ってもらえるものを作りたいんです」 

淡々と語るのは壺市の市野元祥さん(以下、元祥さん)。その言葉の奥には45年という歳月をかけて技術を磨き上げてきた、作り手としての揺るぎない軸がある。 

特に、日々手に取る飯碗へのこだわりはひとしおだ。毎日使うものだからこそ、少しの重みの違いや、口縁(こうえん)の厚みが、使い心地を大きく左右することを知っている。 

「一つひとつ手作りやから、温かみも大事にしたい。でも使いにくかったら意味ないやろ? お客さんから『こないだの、使いやすかったわ』と言ってもらえるんが、僕にとってはほんまありがたいことなんです」 

その「使いやすさ」は、緻密な計算だけで生まれるものではない。長年、何千何万と、ロクロを挽き続けてきた身体の感覚が、意識せずとも形を微調整し、日常の食卓に安らぎを与える質感へと昇華させているのだ。 

やきものの町で、やきものを知らずに育った少年時代 

そんな元祥さんの少年時代の思い出には、立杭で生まれ育ったものの、やきものの風景は広がっていない。 

「子どもの頃はまだ親父はやきもの屋をやってなくてね。関わっていなかったら全然わからへんね」

元祥さんが覚えているのは、今のようにコンクリートで固められる前の、土のままの川だ。幅が2〜3メートルあり、水は透き通っていた。そこで夢中になって魚を追いかけた。 

「夕方まで遊んで、つかまえた魚を家に持って帰ってました。それがそのまま晩ごはんのおかずになったりね」 

田んぼも今のようにきれいに区画整理されておらず、一枚一枚が不規則で、いびつな形をしていた。おおらかな自然のままの景色のなかを、小学生のときは毎日4キロ近い道のりを歩いて通った。 

「学校まで毎日歩いて片道40〜50分。でも道中で見ていた風景や、土のにおいなんかが、自分の感覚の根っこにあるんかもしれへんね」 

立杭に生まれながら、やきものを意識せずに過ごした自由でやんちゃな少年時代。その頃に身体に染み付いた「飾らない自然の美しさ」が、今の元祥さんがつくるうつわの素朴な佇まいに繋がっているように思えてならない。 

自動車への夢と、父から託された土の道

転機が訪れたのは、高校生の頃。かつてやきものの勉強をしていた父が、一度は別の職に就いたものの、再びこの地でやきものの仕事を始めたのである。 

「でも当時は、自動車関係の仕事に就きたいという思いが強かったな。最終的にはその道はあきらめて、やきものの道へ進んだんですけどね」 

消極的な選択だったと笑うが、進学先には京都の美術大学を選び、卒業後は京都の作家のもとへ2年半ほど修業に入った。そこで2年半、仕事としてのやきものの基礎を学び、23歳で立杭に戻った。 

「ちょうどバブルの終わり頃に帰りました。当時はまだ注文もたくさんあって、忙しかった。目の前の仕事を丁寧にこなすのに必死でしたね」 

気負うことなく、しかし着実に。ろくろを回し続けてきた歩みは、今や半世紀近くの歳月を重ねようとしている。 

無理をしない、作りたいものを作る

作るものは、20代の頃から大きく変わっていない。刷毛目や黒を基調としたうつわ。カラフルな色にはあまり手を出さない。「流行りには疎いんですわ。自分の作りたいもんを作ってしまう」。 

現在67歳。「無理したら、次の日しんどいですからね」。そう笑いながらも、手を止めるつもりはない。身体が動く限り、土に触れ続ける。 

一人で集中して作業する日々。工房にいない時間も多く、訪問客と話すのはありがたくも、ちょっと気恥ずかしいと、こぼす。だが、その距離感がうつわにも表れているようだ。主張しすぎず、使う人の暮らしにそっと溶け込む佇まいだ。 

最後に立杭の魅力を尋ねると、元祥さんは間髪入れずに、5月の新緑を挙げた。「前も後ろも、全部緑になりますから」。植林が少ないやきものの里ならではの、近くに迫る緑の気配。そのなかで、マイペースに土と向き合っている。 

はにかむ姿からは、長く続けてきた人だけが持つ余裕と軽やかさがにじむ。漆黒のうつわに宿るのは、そんな元祥さんが表現する丹波の土と地続きの静かな日常そのものなのかもしれない。 

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壺市

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〒669-2135 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭330

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