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稲右衛門窯

profile

上中剛司(うえなかつよし) 

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上中剛司(うえなかつよし) 

十一代目
生まれ年:1982年
作陶開始年:2004年

学歴・修行歴
京都府立陶磁器訓練校 卒業 
京都市工業試験場 修業

The state of the workshop

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Works

撮影:青谷 建

Interview

丹波の古と今を、土に映す。稲右衛門窯・上中剛司が大切にする「作り手半分、使い手半分」

丹波焼の現在地。色彩をまとい、暮らしのなかで使われるうつわ 

稲右衛門窯(いなえもんがま)のギャラリーは、従来の丹波焼のイメージにとらわれない、軽やかな空気が広がっている。色彩豊かなうつわが整然と並び、釉薬の表情や配色のリズムが心地よく調和する空間は、訪れる人の目を引きつける。 

丹波立杭のなかでも、そうした独自の佇まいをもつうつわを手がけているのが、稲右衛門窯11代目の上中剛司さん(以下、剛司さん)だ。 

剛司さんのうつわは、丹波焼の伝統技法である「しのぎ」や手仕事の痕跡を大切に残しながら、現代の食卓に自然と馴染む色彩と実用性を備えている。釉薬の溜まりや陰影が生み出す表情は、一つひとつのうつわの個性となり、色彩の印象と土の落ち着いた質感が共存する。その在り方は、丹波焼の積み重ねてきた歴史と、今の暮らしとのあいだに橋を架けているようにも映る。 

「うつわには作り手がいて、使い手がいる。その両方があって初めて、うつわとして成立する。作り手半分、使い手半分。そう考えています」 

言葉の通り、皿や鉢、カップといった日常使いのうつわを軸にしながら、表現としてのうつわづくりにも向き合っている。行き過ぎた装飾に頼るのではなく、使い勝手を前提としたフォルムと佇まいの両立を大切にしている姿勢が、剛司さんのものづくりの随所に表れている。 

積み重ねのなかで形づくられた、制作のスタイル

京都の陶芸学校でひと通り学んだ後、剛司さんは立杭に戻り、本格的に制作の現場に立つことになる。家業に戻ったというよりも、一人の作り手として、目の前の仕事に向き合う日々が始まった。

若手陶工のグループに参加したことをきっかけに、比較的早い段階で百貨店の画廊での展示の話が持ち上がる。経験も十分ではないなか、特別な感情を挟む余地はなかったという。 

「その時は、できることをやるしかなかったですね。足りないところは作りながら気づいて、直して、また次を作る。今振り返ると、あまり考えすぎずに、手を動かしていた時期でした」 

技術も表現も、完成形を思い描いて一気に到達するというより、試行錯誤を重ねながら、少しずつ形にしていく。その感覚は、現在の制作にも自然とつながっている。 

失敗したら理由を考えて、改善して、また次を作る。特別なセンスに頼るというより、昨日の続きを積み重ねていく。そのやり方が、自分には合っていたんやと思います」 

この窯跡から、暮らしへ

現在の工房の隣には、ギャラリーと陶芸体験スペース、カフェを併設した「INAEMON pottery studio & cafe」がある 。2022年にオープンしたこの場所は、もともと祖父や父の代まで作業場として使われていた空間だ。

その中心にあるのが、昭和40年代ごろに造られたというレンガ造りの窯である。かつては鋳込みによる石膏型の作品を大量に焼いていたというその窯で、時代の流れとともに使われなくなったものの、姿を変えることなく、そのまま残されてきた。 

「この窯を中心にした空間にしたい、という思いがずっとありました。特別な意味づけというより、うちの作業場の歴史そのものなので」 

2階の床板だった古材や、窯で使われていた棚板を内装に再利用し、かつての作業場の空気感が自然と伝わるような空間を設えた。先々代の窯跡を生かしながら、うつわを見る場所であり、土に触れる場所として、工房を開いている。 

「お客さんに『昔、この窯でも焼いていたんですよ』と話すと、すごく喜んでくださる。石膏の成形型など、普段は見慣れている道具も、外から見るとこの場所の歴史を伝えるものになるんだと感じました」 

ここでは、これまで丹波焼が育まれてきた時間の積み重ねと、現在の創作が地続きに存在する。 

過去と現在を対比させているわけではない。この場所で彩りのあるうつわや灰釉、焼締、異素材とのコラボレーションによる制作を行いながら、週末にはカフェと陶芸教室を営む。 

窯跡の息遣いが残る工房で過ごし、土に触れる。その体験を通して「うつわだけでなく、ここでの営み全体を味わってもらえたら」という剛司さんの思いがある。 

流れの中で、問い続ける 

「長い時間の中で、自分もその一部として手を重ねている、という感覚があります。ありがたいことですね」 

剛司さんは、20年前と今とでは、うつわとの向き合い方が大きく変わったと話す。ただし、変化はあっても、歩みが止まった感覚はない。 

「やっと分かってきた部分もあれば、まだ全然足りていないところもある。ずっと途中やと思っています」 

使い心地と、見た目の美しさ。どちらかに寄せるのではなく、日々の暮らしのなかで使われることを前提に、その両立を探り続ける。

11代目として受け継いでいるのは、技法や形だけではない。使い手の時間や暮らしを思い浮かべながら土と向き合う、その姿勢そのものだ。 

完成を急ぐことなく、答えを決めることもない。積み重ねの中で、今日もまた土に触れ、作り続けている。 

Overview
of

稲右衛門窯

Address

〒669-2141 兵庫県丹波篠山市今田町下立杭183

FAX

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