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直作窯
profile
正元 直作(しょうげん なおさく)

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正元 直作(しょうげん なおさく)
十六代目
生まれ年:1953年
作陶開始年:1979年
学歴・修行歴
下関市立大学 卒業
主な受賞歴
兵庫県技能顕功賞

The state of the workshop
スクロールできます










Works


撮影:青谷 建
Interview
丹波の土と半世紀。日常のそばにあるうつわを造り続ける直作窯・正元直作
丹波の土に任せる——静かに暮らしに馴染む直作窯のうつわ
丹波立杭の窯元のなかでもひときわ間口が広く、壁面に大きく書かれてある「直作窯」の文字。店内には、柔らかな青や白を基調としたティーカップやマグカップ、皿が並ぶ。表面にはしのぎの凹凸が走り、ろくろの手跡がそのまま残る。丹波の土らしい、やわらかな表情である。
奥には、白丹波や黒丹波、焼き締めのうつわ、壺や花器が自然な間合いで並んでいる。さらに奥のショーケースのなかには、茶道具で使われるうつわも陳列されている。
直作窯は、丹波焼のなかでも屈指の歴史を誇る窯元であり、その永い伝統のなかで代々多くの名品を世に送り出してきた。時代の移ろいとともに、使い手のニーズを汲み取り、造るものも柔軟に変化させてきている。
それらに共通しているのは、過度な装飾をそぎ落としたシンプルさだ。色味も落ち着いているが、焼成によって表れた釉薬の流れや、炎と灰がもたらす景色が、一つひとつのうつわに唯一無二の表情を与えている。
「朝起きて、工房に座ったら、なんとなく気分的に落ち着くんです。もう生活になっていますから。一日の始まりですね」

そう朗らかに笑って話すのは、直作窯の正元直作さん(以下、直作さん)だ。やきものとともに歩んできた時間は、50年近くになる。得意先は親から子へ、子から孫へと移り変わった。半世紀という時間が、土とともに積み重なっている。
「30年前に買ってくれた人が、今でも大事に使ってますよって報告しに店に来てくれたことがあります。あれはうれしかったなあ」
長く使われてほしいと願って造ったうつわ。そのうつわが造り手と使い手を再びつなげ、温かな交流を生む。

四季があり、空気が澄んでいる。改めて実感した立杭の良さ
直作さんの幼い頃は、造り手が土を掘り、蹴りろくろを回していた時代。朝早くから仕事をする両親の姿が脳裏に焼きついている。粘土づくりから成形まで、すべてを人の手でこなす、体力勝負の仕事というイメージがあった。
「僕らの時代は、家業を継ぐのはごく自然なこと。やきものに関心が出てきたのは高校生ぐらいからかな」
大学に入学し、一度は立杭を離れて外の世界も見た。しかし、離れてみて初めて、地元の風土や暮らしの輪郭がはっきりしたという。
「帰ってきたら、四季があって、空気が澄んでいることに気づいてね。立杭もええやんって思えました」
戻ってきて改めて、生まれ育った土地で続いてきたやきものの営みが、自分の生活と無理なく重なると感じた。今も、無理なく立てたスケジュールで、マイペースに作陶する。

変わっていく客層、変えすぎない姿勢
ここ数年で工房を訪れる顧客の顔ぶれが変わったという。かつては茶道や生け花の関係者が中心だったが、コロナ禍以降、30〜40代の一般の観光客が増えている。
「少しずつうつわの色も変わりましたね。取っ手付きのカップがええとか、使いやすさをリクエストされるようになって」
以前は同じ種類をまとめて購入されることが多かったうつわも、今は一点ずつ選ばれることが増えた。暮らし方や住まいの変化が、そのまま選び方に表れている。
「伝統の形をそのまま続けるんやなくて、そのなかでも新しいものが生まれていくもんやと思います。自然なことですわ」
時代の変化をおおらかに受け入れる。その姿勢が、直作窯のうつわの落ち着きを支えている。

人が集まる窯元の距離感
やきものをしていると、ここ10年ほどで季節と気候が大きく変わったと実感しているという。「夏と冬は、とくに乾燥具合が変わった」と少し困った顔で話す。
「最近は四季が“二季”みたいになってきました。ちょうどええ時期がないですね。でも春や秋の心地いい空気のなかで造ったもんは、やっぱりうつわの状態が違いますわ」
丹波立杭は、都心から車で1時間ほどと比較的近いものの、時間の流れは穏やかだ。
「東京から来てくれた人が『いいところだね』って言ってくれるんですよ。一泊してゆっくり窯元巡りする人も多いですね」
「陶芸家は頑固」というイメージを、直作さんはハハハと笑ってすぐに否定する。「今はそんな人、少ないですよ。気さくにしゃべる人ばっかりです」
30年ぶりに訪ねてくる人もいれば、家族の近況を話しに立ち寄る人もいる。やきものは、人と人をつないでくれる。それは時代が移ろっても変わらない。
時代の波を穏やかに受け入れ、丹波の土と歩んできた半世紀。直作さんの手から生まれたうつわは、今日も誰かの日常にそっと寄り添い、温かみを添えている。


